和が0の数の組の積の逆数の総和
$$\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in\mathbb{Z}^{2n}\\ k_1+\cdots +k_{2n} = 0\\ k_1\cdots k_{2n} \neq 0}} \frac{1}{k_1\cdots k_{2n}} = (-1)^n\frac{\pi^{2n}}{2n+1}$$
を示します。例えば $n=2$ ととれば、
$$\sum_{\substack{a+b+c+d = 0\\abcd\neq 0}}\frac{1}{abcd} = \frac{\pi^4}{5}$$
を得ることができます。$n=1$ のときは、$\zeta(2)$ の表示になっています。
最終更新:2024/5/3
定理
$$\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in\mathbb{Z}^{2n}\\ k_1+\cdots +k_{2n} = 0\\ k_1\cdots k_{2n} \neq 0}} \frac{1}{k_1\cdots k_{2n}} = (-1)^n\frac{\pi^{2n}}{2n+1}$$
証明
まずは $x$ を複素フーリエ級数展開します。複素数の列 $c_n$ を用いて、$x\in(-\pi, \pi)$ の範囲で
$$ x = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx} $$
と書けたとします。$m$ を整数として、両辺に $e^{-imx}$ をかけてから $-\pi$ から $\pi$ まで積分すれば、
$$ \int_{-\pi}^{\pi} x e^{-imx} dx = \int_{-\pi}^{\pi} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx}e^{-imx} dx $$
となるので、両辺をそれぞれ計算します。まず左辺は $m\neq 0$ のとき、
$$
\begin{aligned}
\int_{-\pi}^{\pi} x e^{-imx} dx
&= \left[\frac{1}{-im}xe^{-imx}\right]_{-\pi}^{\pi} - \int_{-\pi}^{\pi} \frac{1}{-im} e^{-imx} dx \\
&= 2\pi(-1)^{m}\frac{i}{m} \\
\end{aligned}
$$
となります。$m = 0$ のときは簡単な計算により0になることが分かります。右辺も計算します。
$$
\begin{aligned}
\int_{-\pi}^{\pi} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx}e^{-imx} dx
&= \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n \int_{-\pi}^{\pi} e^{i(n-m)x} dx\\
\end{aligned}
$$
ここで、$e^{i(n-m)x}$ の定積分は $n\neq m$ のときはすべて0になるので、
$$
\begin{aligned}
\int_{-\pi}^{\pi} \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{inx}e^{-imx} dx
&=c_m \int_{-\pi}^{\pi} dx\\
&= 2\pi c_m \\
\end{aligned}
$$
となります。左辺の結果と合わせて
$$ c_n =
\begin{cases}
0 & (n=0) \\
(-1)^{n}\frac{i}{n} & (n\neq 0)\\
\end{cases}
$$
と $c_n$ を求められました。ゆえに、$x\in(-\pi, \pi)$ の範囲で
$$ x = \sum_{k\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k}\frac{i}{k} e^{ikx} $$
が成り立ちます。$\mathbb{Z}\backslash\{0\}$ というのは整数から$0$を取り除いた集合です。また、被らないように変数を $n$ から $k$ に変更しました。
さて、新しく $n$ を自然数として、両辺を $2n$ 乗してから $-\pi$ から $\pi$ まで積分しましょう。
$$ \int_{-\pi}^{\pi} x^{2n} dx
= \int_{-\pi}^{\pi} \left(\sum_{k\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k}\frac{i}{k} e^{ikx}\right)^{2n} dx$$
となります。左辺は
$$ \int_{-\pi}^{\pi} x^{2n} dx = \frac{2\pi^{2n+1}}{2n+1} $$
と簡単に求めることができますから、問題は右辺です。$k_1$ から $k_{2n}$ までの変数を使って変形しましょう。
$$
\begin{aligned}
& \int_{-\pi}^{\pi} \left(\sum_{k\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k}\frac{i}{k} e^{ikx}\right)^{2n} dx\\
=& \int_{-\pi}^{\pi}
\left(\sum_{k_1\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k_1}\frac{i}{k_1} e^{ik_1x}\right)
\left(\sum_{k_2\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k_2}\frac{i}{k_2} e^{ik_2x}\right)
\cdots
\left(\sum_{k_{2n}\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}} (-1)^{k_{2n}}\frac{i}{k_{2n}} e^{ik_{2n}x}\right)
dx\\
=& \int_{-\pi}^{\pi}
\sum_{k_1\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}}
\sum_{k_2\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}}
\cdots
\sum_{k_{2n}\in\mathbb{Z}\backslash\{0\}}
\left( (-1)^{k_1}\frac{i}{k_1} e^{ik_1x}\right)
\left( (-1)^{k_2}\frac{i}{k_2} e^{ik_2x}\right)
\cdots
\left( (-1)^{k_{2n}}\frac{i}{k_{2n}} e^{ik_{2n}x}\right)
dx\\
=& \int_{-\pi}^{\pi}
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}}}
(-1)^{k_1+\cdots+k_{2n}}\frac{i^{2n}}{k_1\cdots k_{2n}} e^{i(k_1+\cdots+k_{2n})x}
dx\\
=&
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}}}
(-1)^{k_1+\cdots+k_{2n}}\frac{(-1)^n}{k_1\cdots k_{2n}}
\int_{-\pi}^{\pi} e^{i(k_1+\cdots+k_{2n})x}
dx\\
\end{aligned}
$$
このように進めることができます。ここでやはり
$e^{i(k_1+\cdots+k_{2n})x}$ の定積分は $k_1+\cdots+k_{2n}\neq 0$ のときはすべて0になるので、
$k_1+\cdots+k_{2n}=0$の場合だけの和にすることができます。すると、
$$
\begin{aligned}
&
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}}}
(-1)^{k_1+\cdots+k_{2n}}\frac{(-1)^n}{k_1\cdots k_{2n}}
\int_{-\pi}^{\pi} e^{i(k_1+\cdots+k_{2n})x}
dx\\
=&
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}\\k_1+\cdots+k_{2n}=0}}
(-1)^{k_1+\cdots+k_{2n}}\frac{(-1)^n}{k_1\cdots k_{2n}}
\int_{-\pi}^{\pi} e^{i(k_1+\cdots+k_{2n})x}
dx\\
=&
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}\\k_1+\cdots+k_{2n}=0}}
\frac{(-1)^n}{k_1\cdots k_{2n}}
\int_{-\pi}^{\pi}dx\\
=&
2\pi(-1)^n
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}\\k_1+\cdots+k_{2n}=0}}
\frac{1}{k_1\cdots k_{2n}}\\
\end{aligned}
$$
と整理することができます。途中、$k_1+\cdots+k_{2n}=0$ を利用したことに注意してください。
左辺の結果と合わせることで、
$$
\sum_{\substack{(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}\\k_1+\cdots+k_{2n}=0}}
\frac{1}{k_1\cdots k_{2n}}
= (-1)^n\frac{\pi^{2n}}{2n+1}
$$
が得られました。ここで $(k_1,\ldots,k_{2n})\in(\mathbb{Z}\backslash\{0\})^{2n}$ という条件は
$(k_1,\ldots,k_{2n})\in\mathbb{Z}^{2n}$ かつ $k_1\ldots k_{2n} \neq 0$ という
条件と同値であるので、定理が従います。お疲れさまでした。
その他
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偶数個の変数の和を求めましたが、奇数個の場合はだいぶ自明に0になって面白くなかったためです。
よければ理由を考えてみてください。
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このような多変数の級数で、条件がついたものは一般的な研究がされてるのでしょうか。
例えば、$A$ を行列、$k$ を整数からなるベクトルとしたときに、$Ak = 0$を満たす$k$ に対して
同様の和を考えることができます。その場合、級数の添え字として行列を取ることになりますが、
なにか面白い現象は起きるのでしょうか。気になりますね。
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タイトルの日本語が下手すぎ、助詞と名詞でボルタ電池でも作ってるの?
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MZV(多重ゼータ値)の文脈だと和の変数は $n_i$ とすることが多いようです(?)が、
変数を決めるのって難しい...いつも困っています。
参考文献